(余談) 「なまなりさん」を読む

サイキック青年団の先回放送でも言及された中山市朗氏の最新刊「なまなりさん」を早速読了したので、感想めいたものを少し書いておきたい。ご参考まで。
本書のテーマを敢えて一言でまとめてしまうと、呪いと祟りの重層劇といったところだろう。非常にユニークな点は、この呪いと祟りが時間と空間(地理)を超越しながら因果の糸を通じて折り重なり、果ては語り部(沖縄で退魔師の修行を積んだというプロデューサーの伊東礼二なる人物)の不幸な、つまりは彼すらも呪われてしまった現況に収斂、更にその呪詛が今まさに聞き手の中山氏に移行するかもしれないという臨場感である。さすが名うてのストーリー・テラーだけあって、このあたりの畳み掛けるような展開には、怪談ファンならずとも誰しもが素直に引き込まれるのではなかろうか。なお、もう少し具体的な話の大筋概要については書店サイトなどに掲載されている書誌情報を参考にされたい(例えばこれなど)。それ以上にここであまり詳しくあらすじを書いてしまうとネタバレになる恐れがあるので詳細は控える。
実話を匂わせるような「怪異実聞録」という副題に対して、多くの読者が問題というか違和感を感じるとすれば、これが果たしてどこまで事実であるのか、という点ではないかと思う。個人的な感想を率直に述べるならば、登場人物や旧家の状況設定に少々無理が感じられたり、あるいは個々のエピソードを繋ぐために些か都合が良すぎる偶然が重なったり、といった観点から、限りなくフィクションに近いという印象を拭えなかった。ただし、実話かどうかという詮索に伴う疑問は、本書のエンターテインメントとしての価値にはいわば無関係であって、抜群のストーリー展開全般に対しては一点の曇りも与えていないと思われる。
蛇足だが、今年は誠氏と中山氏の両氏が揃って怪談本を上梓された縁もあるので、ひょっとしたらサイキック青年団恒例の8月怪談特集(もしあるとすれば13日か20日のいずれかだろう)は2002年以来久しぶりに中山氏のゲスト出演が期待される。正直言ってこういう絶好の機会に中山氏を呼ばなかったらアホである(苦笑)。