原盤長者
前半の音楽業界夜話にハマってしまったので、他の話題はごく手短かにメモっておく。
原盤権と著作権
矢沢永吉復活劇の裏側には、過去に辛酸を舐めたであろう権利関係、殊に原盤権を押さえることの重要性について彼なりに猛勉強した結果であろうとの与太話から、著作権に比して世間一般には影の薄いと思われる原盤権がもたらす強大な権利に関して話題が発展する。要は、著作権や(原盤権以外の)著作隣接権から発生する印税なぞたかが知れていると。竹内氏は「推定少女」(今春解散)の企画に携わった際の個人的な体験談をふんだんに語っておられた。曰く、「3回目くらいに貰った作詞印税が15円(!)でした。1枚売れて1円とか2円の世界なんですよ」。翻って原盤権ともなると販売価格の12%がリターンとなるらしいとのこと(むろん個々の契約で率の上下はあるだろうが)。
この話は随分と勉強になった。自分なりに咀嚼した結果をざっくり言えば、著作権は特許権同様アイデアに対する権利である一方、それを消費可能な音として具現化した「商品」に対する権利が原盤権であるということになろうか。制作コストを出資負担する見返りの分配権という意味では、株主とかいわゆるファンドの出資者という立場に極めて近い。あるいは、企業家(作曲家や作詞家に相当)がそのアイデアを元にVC(レコード会社や音楽出版会社に相当)から出資を受けて、そのアイデアを具体的なビジネスとして形作るという関係にも似ている。またそのような出資分配額が著作権配分額よりも大きいということは、多くのリスク(資本)を負担した者が一番大きなリターンに恵まれるという点で極めて資本主義的な構造であるとも考えられ、興味深い。最近「音楽原盤権を1口1万円から個人で購入できるサービスが開始」というニュースも目にしたので、商品としての音楽の利益の源泉は実は原盤権にあるということが身近に感じられるようにもなった。
補足。「原盤権とは」でググれば色々と出てきますが、原盤権と著作権との関係について基礎知識を仕入れるには以下の記事が幾ばくかの参考にはなると思う:
その他、私が以前に読んだことのある最近の音楽業界関連の記事をいくつか補強材料として提示しておきます。ご参考まで。
- マルチトラックレコーディングの歴史 第4回 (MI7 Blog):パソコンの中で完結するソフトウエア・シンセや高精度デジタル・サンプリングの登場で、スタジオ・ミュージシャンやエンジニアがほぼ不要となり、原盤制作費が限りなくゼロに近接している背景。嘉門達夫氏も一応は最先端行ってるわけです(苦笑)。
- 「補償金もDRMも必要ない」――音楽家 平沢進氏の提言 (ITmedia):JASRACおよび音楽出版会社の構造的欠陥と著作権について。氏は自前のサイトでダウンロード販売している先駆者。元P-Model。
- 自作曲を有料配信できるヤマハ「ミュージックマーケット」 (ITmedia):原盤制作のリスクが低減したとしても、これから売り出すミュージシャンには最後の大きな関門が待ち構えている。すなわちプロモーションである。このハードルを下げる解決策となりうるような仕組みも、ちらほらと出てきてはいる。音楽版YouTube、のようなものが出現すれば一段と活気が出るだろうが、違法P2Pと紙一重になるとややこしいし...。
- 【丸山茂雄インタビュー前編】「上前をはねる仕組みはダメ」と、ネットに触れて気がついた (日経ビジネス EXPRESS X):上記ヤマハ「ミュージックマーケット」と同様な仕組みをもう少し以前から立ち上げていた丸山茂雄氏の話。
- 津田大介さんにインタビュー (i-morley):デジタル時代の音楽著作権に関して著述や発言の多い津田大介氏に Morley Robertson がインタビューする。iTunes Music Store が分配構造に及ぼす影響など。因みにiTMSの分け前は非常に渋いという話を聞いたことがある(このインタビュー番組ではなかったかもしれない)。パートナーの河野麻子が2ちゃんねらーから蛇蝎のごとく嫌われ、時にダラダラ録音がどうしようもなく質の低下を招くことがあるi-morleyであるが、たまにインタビューものでヒットを飛ばす場合も辛うじてあり。